HDD の信頼性 †
HDD の信頼性は、HDD が故障するまでの時間の長さ(MTTF)に比例するとします。つまり故障するまでの長さが長ければ長いほどその HDD の信頼性は高いと考えられます。
HDD の故障理由 †
HDD は様々な要因で故障します。例としては以下の通り。
- HDD 部品の磨耗
モータ軸の磨耗(ボールベアリングの場合はボールの磨耗、流体軸の場合は粘度の低下)、ヘッド軸のバネや磁石の磨耗等の理由により HDD は故障します。
- ヘッドの着床
物理的な振動、不安定な電源によるヘッド退避ミス、温度差によるヘッドの高さの変化による事故などにより、読み出すためのヘッドがディスク面に着床してしまい、それが破損につながります。当然、部品の磨耗による着床もありえます。
上記の原因は防ぐことは出来ません。必ず寿命があります。よって HDD は必ず故障するもの(消耗品)として考えるのが一般的です。
ただし、一般的な PC で使用されている HDD は、寿命でお亡くなりになることは少ないと考えています。寿命よりその他の要素(電源供給不足、物理的なアクシデント、過度なHDD温度)が起因して故障することが多く、例え HDD の MTTF の値が高かったとしても、それが品質保証に繋がるとは言えないのではないかと思っています。
HDD の信頼性を表す数値 †
- MTTF (Mean Time To Failure、平均故障時間)
MTTF は、HDD が故障するまでの時間を表します。この時間が長ければ長いほど信頼性の高い HDD と言えます。
- MTBF (Mean Time Between Failure、平均故障間隔)
MTBF は、修理を行ってから次の修理を行うまでの故障時間の平均した間隔を表します。HDD の場合、MTTF と MTBF は同じ意味として考えて問題ないでしょう。
「容量」と「性能」と「信頼性」の相互作用 †
HDD の信頼性を高めるためには、「容量」と「性能」との兼ね合いを考慮に入れる必要があります。
以下は、容量を増やす方法についての相互作用の表です。これらの表は Maxtor 社が配布している「We store the digital world.」という冊子*1に記載されたものを引用しました。
容量を増やす方法 | 性能への影響 | MTTF*2への影響 |
プラッタを大きくする | ストロークが長くなるため、シーク性能*3が減少します | プラッタを大きくすると、「揺れ」が大きくなるため、ヘッドを適切な高さに維持することが難しくなり、信頼性が低下します。動作時の耐衝撃特性に影響します。 |
プラッタを増やす | より多くのプラッタを回転させるには、その分電力が必要となるため、許容電力が同じ場合、アクチュエータがシーク動作を行うための電力が減り、性能が低下します。 | 部品数(プラッタとヘッド)が増えることで、MTTF が短くなります。 |
インチあたりのトラック数を増やす | 狭いトラック上で位置決めするため、時間がかかります。 | 動作時の耐衝撃特性と回転振動特性が減ることで、実際の MTTF が短くなります。 |
以下は性能を向上させる方法についての相互作用の表です。
性能を向上させる方法 | 容量への影響 | 信頼性への影響 |
プラッタ・サイズを小さくしてシークする長さを短くする | プラッタ・サイズを小さくすると、容量が減少します。 | 同じ容量を維持する場合、インタあたりのトラック数が増えるため、耐衝撃性能と耐振動性能が減少し、信頼性が低下します。 |
ディスクの回転数を速めて回転待ち時間を減らす | 容量電力を維持するには、プラッタ・サイズを小さくする必要があり、容量が減少します。 | 必要な電力が増えて温度が上がり、信頼性が低下します。また、高速回転時にベアリングの信頼性も低下します。 |
トラック間を広げてシークの位置決め時間を短くする | トラック数を減らすと、容量が減少します。 | 容量を同じにする場合、インチあたりのビット数が増えるため、耐衝撃性能と耐振動性能が減少し、信頼性が低下します。 |
信頼性と容量との差別化 †
HDD メーカは、PC 等のデスクトップ向けとサーバー等のエンタープライズ向けの2通りの HDD を出荷しています。
- デスクトップ向け HDD
「信頼性」を犠牲にする代わりに「容量」と「性能」を上げています。最も効率のよい方法で生産するため価格は低く抑えられています。Maxtor の製品では DiamondMax がそれにあたります。
- エンタープライズ向け HDD
「容量」を犠牲にする代わりに「信頼性」と「性能」を上げています。価格はデスクトップ環境向けの HDD よりは高く設定されています。Maxtor の製品では MaXLine や Atlas がそれにあたります。MaXLine に限っては DiamondMax の同容量・同性能と比べて大体1割増程度の価格なので、他社と比べるとお買い得かもしれません。
信頼性の測定方法 †
現在表記されている MTTF は、DiamondMax で 500,000 時間(約50年)、MaXLine で 1,000,000 時間(約100年)とされています。実際に MTTF を測定する場合、数年にわたって計測するわけではなく、例えば 1000 台のドライブで 1000 時間テストした結果を元に算出*4しています。
ここでひとつ落とし穴があります。実は用途別により、異なった条件下で MTTF を算出しています。以下は Maxtor 社の製品の例です(「We store the degital world.」からの引用)。
- | Maxtor DiamondMax | Maxtor MaXLine | Maxtor Atlas |
一日の電源投入時間 | 9.5時間 | 24時間 | 24時間 |
シークに費やす時間 | 30分〜1時間 | 2.4時間〜4.8時間 | 14時間〜19時間 |
デスクトップ向けの HDD は 24 時間連続稼動させることを意図しておらず、実際にはエンタープライズ向けの HDD の方が遥かに MTTF が上であることに注意が必要です。
このような MTTF 測定は一般ユーザーに知られておらず、各社バラバラな測定方法で製品によってばらつきが多いと指摘され、裁判にもなった記憶があります。HDD 容量の水増しの件といい、どうも HDD 業界全体がセコい商業スタイルを引きずっているようです。
エンタープライズ向けの HDD の容量が少ない理由 †
エンタープライズ向けの HDD の場合、デスクトップ向けと比べ容量が少ないことが多いです。
プラッタの直径が小さい †
7200rpm のデスクトップ向け HDD(Maxtor) の場合、プラッタの直径は 95mm で、ハードディスクの幅 101mm のギリギリまで利用しています。エンタープライズ向けの HDD(Maxtor) の場合、プラッタの直径は 84mm(10000rpm)/70mm(15000rpm) とハードディスクの幅の割には小さくなっています。
Maxtor の冊子*5によると、以下の利点によりプラッタの直径を小さくしているとのこと。
- 安定したヘッドの高さの維持
プラッタとヘッドの間は空気分子2〜3個分程度の高さを保って動作しています。プラッタの高さは、プラッタの回転で引き起こされる気流を利用してしています。プラッタの内径と外径を比較した場合、プラッタの外径の方がより多くの気流を受けてしまいます。よって内径と外径の幅が小さければ小さいほど安定したヘッドの高さを保つことが可能になります。
- 物理的な衝撃に対する信頼性
直径が小さくなることでヘッドの長さも小さくすることが可能になり慣性も小さくなります。外的な振動を受けた場合、ヘッドを退避する速度も速くなります。さらにより高速に回転することにより強い空気抵抗が生まれ、ディスク面との接触を避ける効果があります。
- ヘッドの移動速度強化
直径を小さくすることで HDD 内の空きが増えます。この空間に強力なマグネットを搭載することでヘッドの移動速度を速めることが出来ます。
- 電力消費の緩和
プラッタの回転数を上げると、プラッタの抵抗力が増すためにより多くの電力を必要とします。同じ 7200rpm のプラッタ(95mm)を 15000rpm で回転させる場合、8 倍の電力を必要とするとのこと。